トロログ

トロニーのブログ、略してトロログ。

かぶを抜くよりも気持ちいい瞬間

「おおきなかぶ」という童話がある。その名の通り、巨大なカブの話だ。

 

 

おおきなかぶ

おおきなかぶ

 

 

 

おじいさんが育てたそのカブはあまりに大きくなってしまった。だから一人だと力が足りず、抜くこともできない。ずっと世話していたのなら、ちょうどいい頃合いで収穫しろよ、と思わないでもないが、こりゃ一人じゃ無理だと気づいたおじいさんは、家からおばあさんを呼んで手伝わせる。一人はみんなのために、みんなは一人のために。おじいさんがカブの葉の根本を掴み、おばあさんはその背後で葉っぱを思いっきり引っ張る。うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶは抜けません。

 

こんなに筋肉使ったのも久しぶりねぇ、とか言いながらおばあちゃんは孫娘を呼び、三人で一列になって引っ張るが、これまた抜けない。せっかく三人もいるのだから、文殊の知恵を発揮してカブの周りの土を掘るとかしたら?と思わないでもないが、ここまで来たらそういう問題ではないのだろう。プライドである。農家のメンツにかけて、このクソデカカブも普通のカブと同じように引っ張って収穫しなくてはならない。次を呼べ。後ろにつけ。カブを引っ張れ。犬?マジで?もう人間いないの?過疎ってこわいねぇ〜。まぁいいよ、犬で。引っ張れ!引っ張るんだ!それでもかぶは抜けません。

 

犬でもダメなら更に猫だ。三人と二匹、いざ参る。うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶは抜けません。いやもう全然じゃん。そもそもおじいさんもおばあさんも力尽きてるでしょ。無理そうな段階で全力出しちゃだめよ。見極めてこうよ、何年生きてんのよ?と思わないでもないが、仕方あるまい。ここまで来たら最後まで数を増やす作戦でいこう。たぶん脅迫的なアレがあったのだろう、猫がネズミを連れてきた。これがラストチャンスだ。行くぞ!うんとこしょ、どっこいしょ。そんなわけで、ようやくカブは抜けたのであった。めでたしめでたし。

 

さて、たしかにカブが抜けたのはめでたい。甘くて美味しいカブを収穫できたのは単純に嬉しいだろうし、これをきっかけに町おこしもできそうだし、なにより「スポーン!」とか音を立ててカブが抜けた瞬間は気持ちよかっただろう。みんないい汗かいて、ハイタッチをしたり「シャアッ!!!」とか言ってガッツポーズしたり、めいめい騒ぎ、その夜は打ち上げで久しぶりに美味しい酒が飲めたはずだ。だが、おじいさんが一番気持ちよかったのはそこではないだろうな、となんとなく思うのだ。

 

 

 

まず、最初にテンションが爆上がりしたのはカブを見た瞬間だろう。甘くて大きいカブになってくれたら嬉しいな〜って思いながら種を植えたとはいえ、こんなに?!!??という困惑と喜びだ。しかし、そこで喜び勇んでカブの葉に手をかけた瞬間、その重みに冷や汗をかいたはずだ。こいつはマズイ、と。気分はどんどん落ち込んでいく。

 

本格的に絶望し始めたのは孫娘を手伝わせた上で作戦が失敗した瞬間だ。もう人間おらんぞ…。ここから事態が好転することある?なくない?そうなったらあとは捨て鉢だ。いや犬て。犬に引っ張らせるってなに?孫娘かわいいけどこういうところあるんだよな〜。まぁ今更なんだっていいけどさ…は〜あ…。とか言いながらカブを引っ張り、失敗。そのときは少しウケたと思う。引っ張らせといてなんだけど、犬て。無理あったな流石に。と、皮肉に笑ったおじいさん。猫が来ても今度は冷静。まぁ、犬の次って言ったら、だもんね。くらいの低体温っぷりを見せつける。失敗しても全然落ち着いたものだ。もう後は好きにやらせよう。老い先短いこの老いぼれができるのは若い人間に自由にやらせることだけ…。

 

しかしネズミが加わって引っ張ってみた瞬間、おじいさんは気づく。明らかに手応えが違う。「確か」なのだ。もう少しでカブが抜けるという確信。今、ここで、持てる限りの力を出せば、カブは抜ける。根拠はない。ただ、確信だけがある。後ろには仲間がいる。おばあさん、孫娘、犬、猫、ネズミ…。だれが欠けてもここまでたどり着けなかった。カブは一生抜けず、そして俺は一生「大きなカブを抜くことができなかった」と後悔しつづけるだろう。だが、仲間がいたからこそ、今、カブは抜けようとしている。その日一番大きな掛け声を出しながらおじいさんは思っていたはずだ。「この一瞬が、ずっと続けばいいのに…」

 

カブは抜けた。

 

おじいさんはこの日のことを一生忘れなかっただろう。おおきなかぶが抜けた日ではない。大切な仲間がいることに気づいた日だ。日記にもそう書いたし、その後事あるごとにひ孫に語って聞かせた。あの日の武勇伝を。

 

ちなみになんですけど、おじいさん以外の全員は、カブを引っ張っている最中「収穫のこと考えないで種植えてたのマジで自分勝手すぎるし最悪すぎるな」とずっと思っていて、抜けた瞬間、解放に打ち震えて泣きそうになっていたらしいです。おわり。